まちの薬局つれづれ日記 第4回

2016.01.27 薬剤師コラム


ヤマグチ薬局の山口晴巨さんのエッセイは今回が最終回です。次回からは、こばやし薬局の小林康治さんのエッセイをお届けします。

薬局を継ぐという道

町の薬局は後継者不足が深刻だそうです。かく言う私の実家の薬局もかつては後継者問題(つまり私)が深刻でした。
私は薬局の子として生まれ育ちました。学校から帰ると店の倉庫や市場が遊び場で、夜8時になると店じまいを手伝って父と一緒に家に帰るのです。土日も祝日もなく年間365日中360日くらいは本当に薬局は開いていました。「ご近所さん」=「お客さん」であり、両親はいつもお客さんと何やら話し込んでおり、そうでない時は常に忙しそうに働いているという風景でした。

一方、私は大学を出て薬剤師にはなったものの、勤めていた会社では海外勤務にもなり、どんどん広がる仕事の世界にとてもやりがいを感じていました。そこから見た「ヤマグチ」という名の個人商店は広さも深さもない、ちっぽけな町の零細パパママ薬局にしか見えませんでした。
かつて私が遊んだ商店街は、もうそこにはありません。すぐ近所には調剤併設巨大ドラッグストアができたし、個人薬局には厳しい時代が来ることが分かっていましたので、将来実家の薬局を継ぐという選択肢は全く頭になく、ずっと会社勤めで行くつもりでした。パパママ薬局後継者不足の共通点には、こういうワクワクしない閉塞感があるのかもしれません。またこれは薬局に限った話ではなく、衰退する小売業全体に言える傾向ではないかとも思います。

その後父が体調を崩し、経営にも業務にも支障が出始めました。平日はパートの薬剤師スタッフがフルでカバーし、私はサラリーマンをしながら土曜日に薬剤師として薬局に出るという生活が始まりました。と同時に「この薬局を閉めるのか、譲渡するのか、私が継ぐのか」今まで先延ばしにしてきた我が家の後継者問題に結論を出す必要に迫られました。たかが薬局、されど薬局。この患者さんがいつもうちに来てくれている理由は何なのだろう? 顧客とは何に満足し何に不満を持つのだろう? そもそもうちの薬局の存在理由は何なんだろうetc。
今まで近すぎて深く考えることさえなかった素朴な疑問を一から考え直し、活躍する著名な経営者や業界内外の話を読んだり聞いたりしながら自問自答の日々となりました。

結論として気づいたのは「今求められている薬局の姿」というのは「うちの薬局では昔からずっとやっていたことがいっぱいあるじゃないか!」ということでした。本来あるべき薬局の姿を大切にしながら、新たな分野にも前向きに挑戦して経営を引き継いでいこうと決心しました。

町の薬局とは一体何なのでしょう? ある難病の子どもさんが来ています。調剤室では厳密に散剤を計量・分包します。その5分後、カウンターでその薬をお母さんに手渡しながら今の体調や今後の治療方針などを確認します。またその5分後、待合い椅子では、その子が私に妖怪ウォッチのキャラクターを解説してくれます。この15分間で次々と求められるのは正確な薬学知識と技術、不安に応えるコミュニケーション能力、妖怪ウォッチ関連知識などであり、この守備範囲の広さと突然の対応力は町の薬局薬剤師ならではだと思うのです。

健康相談とも人生相談ともつかない相談もあります。こうなると医学・薬学・看護・介護知識の総動員となりますが、講義のように順序立てて話させてもらえる訳ではなく、ジャズのアドリブセッションみたいに相手の出方によって、あっち行ったりこっち行ったりしながらまとめる高度なテクニックが必要になってきます。電話で質問もきます。こちらから電話してその後の様子を聞くこともあります。それでわざわざお礼に来てくれたりもします。要は全員特別扱い。薬歴管理とは別に「気持ちに応えられたかどうか」という目線でカスタマーマネジメントしています。用事もないのに来るじいちゃん。家の鍵がないからと薬局に来て宿題をしている子。自分の病気を明るく笑い飛ばして「もうしゃあないわなー! わっはっはー」と毎回大声で我々を元気にしてくれるばあちゃん…。

かつては奥行きも広がりも魅力も感じず、零細パパママ薬局にしか見えなかったちっぽけな自分の薬局で、まさか今までこんなに深くて広い世界が毎日のように展開していたなんて…。こんな薬局は簡単に閉めてはいけません。きっと同じような境遇の町の薬局は全国にたくさんあって、実は魅力があるのにそれがなかなか伝わらずに後継者や採用に苦労しているのではないかと推察します。「スターバックスで売っているのはコーヒーではない」というスターバックス元社長ハワード・ビーハーの言葉と同様「町の薬局で売っているのも薬ではない」と思うのです。こんな時代だからこそ、その味気ある存在価値を発揮して頑張って欲しいと思っています。

地元の小学2年生が「町たんけん」でヤマグチ薬局に来てくれました。「なぜここで薬局を始めたのですか?」と聞く子がいました。「薬局を始めたのはこの写真に写っているじいちゃんです。私はその子供なのでなぜ薬局を引き継いだかというと、この薬局はここで50年も前からやっているからです。みーんなのお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんたちから信頼してもらってやっているので、これはとっても大切なものだと思ったから私は薬局をやることにしたのです」

text by 山口晴巨(やまぐち・はるお)

大阪薬科大学卒。18年間外資系製薬会社勤務後、2011年実家のヤマグチ薬局(大阪府吹田市)の経営を引き継ぐ。