決めたからには本気ですよ。それしかないから。〈1988 CAFE SHOZO〉
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JR那須塩原駅で3両編成の電車に乗り換えると、遠くの山並みがグッと近づいた。今回訪れたのは、コーヒー好きにはよく知られているSHOZO COFFEEの黒磯本店「1988 CAFE SHOZO」。オーナーの菊地省三さんにお話を伺った。

開店は1988年6月。黒磯駅から徒歩15分ほどの、通りに面したアパートの2階。当時は周りに何もなかったが、お客さんが来るかどうかよりも、21歳の時に決めた「27歳でお店をやる」という自分との約束を破るわけにはいかなかった。省三さんはいつも目標に期限を決める。「だって期限を決めないと、もっといいものが見つかるんじゃないかと先延ばしにしてしまうでしょう?」
そもそも省三さんは、人生の目的を探していた。高校を出て、海上自衛隊に入っても「なんのために生きていくのか?」「どんな大人になっていくのか?」と日々悩んだという。人が生まれてやがて死ぬとはどういうことか、その目的を知りたくて、お寺や教会やさまざまな宗教で教えを聞いた。だが、答えはなかった。人生の目的はわからないが、人生に目標を持ち充実感を得ることはできるだろう、ならば、やるべきことは自分で決めるしかないと悟った。自衛隊で団体生活が向かないと分かったので、「ゼロから自分の物語を作る」、つまり、お店をやる、中でもシンプルな喫茶店にした。決めたからにはベストを尽くす。コーヒーが特に好きだったわけではないが、コーヒーのある風景は好きだった。コーヒーの勉強をするために北海道の札幌へバイクで向かう途中、小樽でタイヤがパンクした。その修理の間に飲んだコーヒーの美味しさが、今でも味の指標になっている。「コーヒーは淹れ方じゃなく、焙煎だよ」と教えられたのもその時だった。
そもそも省三さんは、人生の目的を探していた。高校を出て、海上自衛隊に入っても「なんのために生きていくのか?」「どんな大人になっていくのか?」と日々悩んだという。人が生まれてやがて死ぬとはどういうことか、その目的を知りたくて、お寺や教会やさまざまな宗教で教えを聞いた。だが、答えはなかった。人生の目的はわからないが、人生に目標を持ち充実感を得ることはできるだろう、ならば、やるべきことは自分で決めるしかないと悟った。自衛隊で団体生活が向かないと分かったので、「ゼロから自分の物語を作る」、つまり、お店をやる、中でもシンプルな喫茶店にした。決めたからにはベストを尽くす。コーヒーが特に好きだったわけではないが、コーヒーのある風景は好きだった。コーヒーの勉強をするために北海道の札幌へバイクで向かう途中、小樽でタイヤがパンクした。その修理の間に飲んだコーヒーの美味しさが、今でも味の指標になっている。「コーヒーは淹れ方じゃなく、焙煎だよ」と教えられたのもその時だった。

どんな喫茶店にしたいのだろうと掘り下げていくと、ここをいい街にしたい、旅人が来る街にしたいという考えが浮かんだ。例えば、3年後に今日ここで飲んだカフェオレの味を思い出すような、記憶に残る店作りをしようと思った。また、北海道にいた時、2階にあるお店に憧れた。階段の途中から見える階下や、2階の窓から見える景色が好きなのだ。2階の喫茶店なんてうまくいくわけがないとみんなに反対されたが省三さんの心は決まっていた。オープンから1年はお店に寝泊まりした。始めたくて始めたお店で、楽しくてしょうがなかった。どうしたら気持ちよくできるかを全部の椅子に座って考えた。メニューもテーブルの配置も、これで最高と思っても数日経つとまた変化の種が見えてくる。変化の種や問題点は、改善することができる宝物だ。「自分のお店を大事にして、よく見ていれば色々見えてくるんです」

ここ数年は焙煎に力を入れてきた。「うちのコーヒーを世界のどの国の誰が飲んでも恥ずかしくない味にする」と言った直後、「今のは言いすぎた」と照れ笑い。30年前から趣味の焙煎だが、2023年開店の軽井沢店で扱う豆は「俺が全部焼く」と決めたことで本気になった。
オープンして1年が過ぎてもまあまあのできだったが、ここ数カ月で満足のできを達成。雑味や舌に残る後味を焙煎でコントロールする。「世の中には、それは焙煎じゃなくて豆の持ち味だからしょうがないと思っている部分があるけど、俺の中では焙煎で消えるはず」と信じて、30年消えなかった雑味を、これでだめなら今回の人生ではできないと思うほどやるべきことはすべてやり、だめかと落ち込んでソファで動けなくなる日も乗り越え、消した。「いい空気やいい環境の中で飲めば美味しく感じると言うけれど、俺は美味しいコーヒーは必ず存在するってことを知りたかった」。本気なんですね。「本気ですよ。それしかないから、人生をかけるしかなかった」
オープンして1年が過ぎてもまあまあのできだったが、ここ数カ月で満足のできを達成。雑味や舌に残る後味を焙煎でコントロールする。「世の中には、それは焙煎じゃなくて豆の持ち味だからしょうがないと思っている部分があるけど、俺の中では焙煎で消えるはず」と信じて、30年消えなかった雑味を、これでだめなら今回の人生ではできないと思うほどやるべきことはすべてやり、だめかと落ち込んでソファで動けなくなる日も乗り越え、消した。「いい空気やいい環境の中で飲めば美味しく感じると言うけれど、俺は美味しいコーヒーは必ず存在するってことを知りたかった」。本気なんですね。「本気ですよ。それしかないから、人生をかけるしかなかった」

今、店舗は本店のほか、那須、白河、軽井沢、東京などにある。それぞれの場所から気持ち良い風を吹かせようというのがテーマ。それは、店内だけでなく店の周りもそう。だから緑を置いたり、窓を拭いたり、ゴミを拾ったりして、気持ち良さを広げている。「それぞれの街から気持ち良い風が広がったらいいですよね」と省三さん。すべてのお店で気にかけるのは、オペレーションのしやすさ。収納場所や動線が理にかなっていると仕事がしやすい。やり辛さを我慢してやる必要はない。工夫して楽なやり方で楽しく長く続けてほしい。その考え方はかや葺き屋根の下で牛が一緒に住んでいるような農家で育ち、与えられたものでなんとかやりくりして結果を出しながら育ったからだという。
いいお店じゃないと人を喜ばせられない。人を感動させられないと自分が満足しない。だから自分のためにやっている。たった一回の人生、自分が好きなことを極めていったらこうなっていたという省三さん。焙煎が軌道に乗った今、必ずしも高い豆でなく、安く仕入れ美味しく焙煎した豆を提供することも可能だと思っている。
今年は軽井沢店まで往復約500kmの道を新緑の中、オートバイで走れる体づくりが期限付きの目標だ。
いいお店じゃないと人を喜ばせられない。人を感動させられないと自分が満足しない。だから自分のためにやっている。たった一回の人生、自分が好きなことを極めていったらこうなっていたという省三さん。焙煎が軌道に乗った今、必ずしも高い豆でなく、安く仕入れ美味しく焙煎した豆を提供することも可能だと思っている。
今年は軽井沢店まで往復約500kmの道を新緑の中、オートバイで走れる体づくりが期限付きの目標だ。
(写真と文 篠田英美)

1988 CAFE SHOZO
栃木県那須塩原市高砂町6-6 電話/0287-63-98331F TASTE 11:00~18:30
コーヒー豆と焼き菓子の販売
2F CAFE 11:00~18:30 休業日/不定期