まちの薬局つれづれ日記 第14回

2018.07.31 薬剤師コラム


日常の中で感じるあんなこと、こんなこと。
class A 薬局の仲間で、薬正堂(沖縄県)薬剤師の佐藤雅美さんがお届けします。

や『む』ちん

沖縄県は日本でいちばん薬剤師が少ない県です。人口10万人あたりの薬剤師数は、最多の東京都358人に対し150人という少なさ!(全国平均は237人)。しかし、処方せん受取率は全国11位の76.6%という、なんともまあバランスの悪い状態なのです。
薬剤師が少ない理由として、地元に薬学部がないために進学する絶対数が少ないことが挙げられます。

所得が全国平均の7割と言われている沖縄から本土への進学は、経済的負担がかなり大きいのです。それでも毎年100人前後が薬学部に進学しますが、一度県外に出てしまうと、薬剤師になっても戻って来る者は少なく、薬剤師不足が喫緊かつ継続的課題となっています。
そんな沖縄の薬剤師事情ですが、青い海で年中マリンスポーツが楽しめる自然環境や、のんびりとした時間・人間性に魅かれ、多くの県外出身の薬剤師がⅠターンや期間限定で勤務するためにやって来てくれます。

その県外薬剤師から面接の際に必ずといってよいほど聞かれる質問があります。「方言が分からなくても大丈夫ですか?」
以前、沖縄で話される言語数は180前後あると、言語変換ソフトの開発をしているアメリカ人の友人から聞いたことがあります。私の出身の宮古島でさえも小単位の村落で方言が違います。島全体の中学校から生徒が集まる高校入学時、「な、なんだ、ここは!?」と受けた衝撃は今も忘れることができません。
まるで旧約聖書に出てくるバベルの塔のように、言語を乱され意思の疎通が取れない状況。大袈裟ではなく、違う中学校出身の同級生が話している言葉は全く理解できないのです!(白状しますが、沖縄本島の方言をいまだに十分理解しているとは言い難い私です)

さて、現在に戻って……薬局での会話はこんなことになります。
おじい:「くぬくすい、ばんない あまとんどー」(訳:この薬、いっぱい残ってるよ)
薬剤師(本土出身):……(いったん笑顔で逃げてみる)
おじい:「あんたは本土の方ね~?」(意外に思われるかもしれませんが、こういう時のおじい・おばあの状況判断はかなり迅速)(中国や日本本土、そしてアメリカとどちらの顔色も窺わなければいけない時代が長かったので)
薬剤師:「え?? はい、そうです」
そこからは、お互いが歩み寄りながらの会話(服薬指導)が始まるわけです。(だから皆さん、安心して沖縄へお越しください)

なかには、相手に合わせてもらうだけでなく沖縄方言を習得しようとする熱心な薬剤師もいて、「〇〇〇さあ~ね~」と変なイントネーションで薬局中から注目されることもしばしば。一生懸命馴染もうとする姿が、あまりにも微笑ましいので注意することも憚(はばか)られるほど。そして、ソレは同僚同士で交わす会話のなかでの出来事。
「そろそろ、や『む』ちん市(いち)でしょ。一緒にいきませんか?」
やむちん??
そうです、彼女は、やちむん(ヤキモノ=陶器)を「やむちん」と間違って覚えてしまっていたのです!
その音(オト)が面白いとはいえ、さすがにこの時ばかりは訂正しました。しかし、彼女は最初に刷り込まれた「やむちん」を、正しく覚えなおすことがなかなかできません。読谷村にある「やちむんの里」の大御所陶工の前でも「やむちん! やむちん!」と繰り返す彼女なのでした。
彼女はきっと沖縄を離れた今も、その当時の思い出を語る時、関西弁のノリのよい感じで「やむちん」と言っていることでしょう!

Oh! やむちん!

text by 佐藤雅美(さとう・まさみ)

沖縄県宮古島出身。大学卒業後、病院薬剤師勤務を経て薬局薬剤師へ。「観・食・感」を人生のテーマに掲げて、日々をひっそり・こっそり愉しみ中。