まちの薬局つれづれ日記 第25回

2021.04.28 薬剤師コラム


日常の中で感じるあんなこと、こんなこと。
class A 薬局の仲間で、天心堂梅崎薬局(福岡県)の梅崎実さんがお届けします。

困難な時に思い出す『祖父の言葉』

あなたは「石目(いしめ)」という言葉を聞いたことがありますか?私はこの言葉を石仏師をしていた祖父から教わりました。
石仏師というのは、石で仏像やお地蔵様を彫る職人のことです。石仏を彫るときには、大きな石を小さく割り、それから仏像を彫っていきます。

左:祖父が彫ってくれた薬師如来像
右:他薬局との勉強会も今年はオンラインを取り入れて

私はどうして大きくて硬い石を簡単に割ることができるのかとても不思議でした。その秘密を尋ねると、祖父はこう教えてくれました。「実、石には目があると。やみくもに叩いても石は割れんばってん、目を見定めてノミを入れるとキレイに割れるとばい」
この時の祖父の言葉を、今でもよく覚えています。特に困難な課題にぶつかった時、必ずこの言葉を思い出します。
どんなに難しい課題でも、「石目」を見つけることができれば、状況を打開することができるからです。

私たち天心堂はコロナ以前から、OTCの販売強化に取り組んできました。柳川市の医療需要はすでに減少フェーズに入っていますし、これから先の保険医療を考えると、処方せん調剤に依存した経営はリスクが高いと感じていたからです。
調剤報酬以外の収益の柱を作ることは、天心堂にとって急務です。ところが、どれだけ知恵を絞っても、思うような成果が出せませんでした。
漢方相談薬店で成果が出ているニュースレターやお礼状などのアナログ販促を実施したり、セミナーやイベントを開催してコミュニケーションを強化したり、ブログやチラシで情報発信を強化したり。さまざまな取り組みを実践しましたが、売上は横ばい。
なぜ、成果が出せないのだろうか……。次々に販促の取り組みを実施しては玉砕する日々。実に2年近く、悶々と考える日が続きました。そんな時、当薬局の薬剤師が「OTCを販売するためには、もっと知識を身に付ける必要があると感じています」と言ってきました。その言葉を聞いたとき、私は強烈な違和感を覚えました。その薬剤師は、漢方薬生薬認定薬剤師の資格を持ち、病院薬剤師の経験もあります。薬の知識はちょっとしたものです。なのになぜ「知識が足りない」と感じているのか?知識は十分にあるはずなのに、まだ足りないと感じている。そこに、「石目」があるんじゃないか?
そう考えて、ある取り組みを始めました。社長に提案して病気治療や顧客との向き合い方を話してもらう勉強会を開催することにしたんです。その勉強会に他薬局の方にも参加してもらい、LINEで日々の取り組みを情報交換する仕組みを作りました。この勉強会の狙いは、知識の修得ではなく、顧客の健康作りに一緒に取り組む「仲間を作ること」です。
天心堂の薬剤師は、知識は十分にある。でもそれを使ってお客さんに向き合う「勇気」が不足している。仲間を作ることで勇気を奮い起こさせれば、行動が変わり、結果が変わるのではないか?と考えたのです。
勉強会を始めて数カ月。それまで微増程度でしかなかった売上は60%アップ、80%アップと急増していきました。
天心堂の場合、薬剤師を勇気づけることが、OTC販促の「石目」だったのです。

どんなに困難に感じる課題でも、必ず「石目」が存在します。
課題やお店の状況によって、石目は違います。しかし仮説を立てて実行し、成果を検証し続ければ、いつかその石目が見え、状況を打開することができます。
コロナ禍で我々調剤薬局も厳しい時期が続いていますが、石目を探し続ける努力を怠らなければ、きっと状況を打開できるはずです。その先には、薬局がもっと地域に必要とされる時代が来ると、私は信じています。

text by 梅崎 実(うめざきみのる)

福岡県柳川市で調剤薬局と漢方薬店を運営する天心堂の副社長。顧客との固いつながりを武器に大手に負けない経営を実践中。経営コンサルタントの国家資格「中小企業診断士」として、売上UPや補助金申請支援も行う。